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AMR(自律走行搬送ロボット)の基礎と導入時の課題を解説

公開日:2025-06-02

AMR(自律走行搬送ロボット)の基礎と導入時の課題を解説
EC市場の急速な拡大を背景に荷物の運搬作業が増加。物流・製造業界を中心に人手不足が深刻化しています。
このような状況を受け、物流・製造業界をはじめ、サービス業や医療機関など幅広い業界で、AMR(自律走行搬送ロボット)の導入を検討する企業が増加しています。

本記事では、AMRの基礎知識から導入にあたっての課題・解決策まで詳しく解説します。

AMRの基本知識

AMR(自律走行搬送ロボット)とは?

AMR(自律走行搬送ロボット)は、Autonomous Mobile Robotの略で、自分でルートを決めて荷物を運搬するロボットです。
SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)などの技術を用いて、自己位置と周辺環境を認識し、自律的に物を運搬することができます。

従来の搬送ロボットと異なり、AMRは自律的にルートを決めることができるため、人と協業しながら搬送作業を自動化することが可能です。
身近な例としては、飲食店などでよく見られる配膳ロボットがAMRの代表例となります。
配膳ロボットもAMRの一種

AMRロボットが求められる背景

AMRは製造業や物流業を中心に、様々な業界で導入が進んでいます。
導入が進む社会背景には主に以下の6つの要因があります。

 1. 人手不足解消のニーズ
日本の生産年齢人口減少により、物流・製造現場では作業員確保が年々困難になっています。
特に単純作業や重労働を担う人材の採用難は深刻で、現場の人手不足は喫緊の経営課題となっています。
AMRによる搬送作業の自動化は、この人材確保問題に対する効果的な解決策として期待されています。

 2. EC市場の拡大
近年のEC市場急拡大に伴い、物流センターでの荷物処理量が大幅に増加しています。
季節変動やセールなどの特定イベント時の需要急増に対応するには、柔軟にスケールできる自動化システムが不可欠です。
導入の柔軟性が高いAMRは需要変動に応じて台数調整がしやすいため、ECの商品を取り扱う物流拠点で活躍しています。

 3. 安全性の向上
物流・製造現場では重量物運搬や反復作業による労働災害リスクが常に存在します。
AMR導入により危険作業や負荷の大きい作業を自動化することで、作業環境の安全性を大幅に向上できます。
従業員の健康管理と労働安全衛生面でも、AMR導入の効果が期待できます。

 4. 効率化・省人化
AMRは24時間365日の連続稼働が可能で、人手作業と比べて作業効率が大幅に向上します。
深夜帯や繁忙期の人員配置問題を解決し、一定のスループットを維持できる点が評価されています。
さらに単純作業からの人員解放により、より付加価値の高い業務への人材配置転換も実現できます。

 5. ヒューマンエラーの軽減
人手作業では避けられない誤配送や誤仕分けなどのミスを、プログラムに基づく正確な作業で防止できます。
特に製品の品質管理が厳しい医薬品や精密機器の現場では、ヒューマンエラー防止手段としてのAMRの価値が高く評価されています。誤配送減少による返品処理コスト削減も大きなメリットの一つです。

 6. DX推進の一環
多くの企業でDXが推進される中、業務プロセスの自動化も急速に進んでいます。
AMRはIoTデバイスとしての側面も持ち、データ活用による業務改善にも貢献できます。
完全自動化ではなく人との協業が容易な点も、段階的なDX推進の第一歩として評価されています。

AMRとAGVの違い

搬送ロボットには、AMRの他にAGV(無人搬送車)もあります。両者はどのような違いがあるのでしょうか。

導入時・運用面の違い

導入時の違い
AGVを導入する際は、磁気テープやQRコードなどの誘導体の設置工事が必要になります。
一方、AMRは現場環境を記憶させるだけで導入でき、現場工事が最小限で済むという利点があります。
ただし、AMRのシステム設計やネットワーク設計には以下のコストが発生します。
・ 専門知識を持った人材リソース
・ 設計にかかる時間
・ 通信機器やサーバーなどの設備投資

ルート・レイアウト変更時
AGVはルート変更時に再工事が必要です。一方、AMRはソフトウェア上で簡単に走行ルートの変更が可能です。

費用対効果
本体価格については、AMRの方がAGVに比べて高い傾向があります。
しかし、AMRは拡張性と柔軟性で長期的なメリットを得られる場合が多いでしょう。

まとめ:AMRとAGVの主な違い

【走行方式】
・AMR
周囲環境を自律認識して移動
・AGV
物理ガイド(磁気テープ、QRコード、レーザー)に沿って走行

【走行精度】
・AMR
システム設計、ネットワーク設計に依存
(設計次第で走行精度が悪くなる可能性あり)
・AGV
決まったルートを走るので高精度

【設備投資コスト】
・AMR
本体が自律的に移動できるため、工事は最小限
・AGV
物理ガイド・ネットワーク構築により工事コストが発生

【柔軟性】
・AMR
自動で対応可能
・AGV
レイアウト変更時にガイド再設置が必要

【適正作業】
・AMR
多様なルート・変化の多い環境での作業
・AGV
安定した環境での繰り返し作業


【参考】AGV(無人搬送車)とは?

AMRの業界別活用シーン

障害物を自ら回避し、最適な経路を選択しながら自律的に物を運搬するAMR。
その優れた機動性と柔軟性は、製造業や物流業界にとどまらず、サービス、医療、大型施設など多様な現場で活用できる可能性を秘めています。
それでは業界別の具体的な活用シーンを見ていきましょう。

物流業界での活用シーン

ピッキング作業の効率化
AMRが搬送を担当することで、作業者がピッキングに集中できるようになり、作業効率が向上します。

倉庫内の搬送自動化
パレットやカートの拠点間移動を自動化することで、大型物流センターの効率化を実現できます。

省スペース化
運搬ルートの安全地帯を最小限とすることができ、限られたスペースを有効活用できます。

製造業・工場での活用シーン

工程間の部品・製品搬送
各工程間の半製品や部材の移動を自動化することで、生産効率を高めることができます。

多品種少量生産対応
生産品目が変わっても柔軟に経路変更して対応できるため、多品種少量生産に適しています。

サービス業での活用シーン

飲食店での配膳・下膳作業
テーブルへの料理運搬や空皿の回収を自動化し、接客スタッフが顧客対応に集中できる環境を作ります。

ホテルでの客室サービス
アメニティやルームサービス料理の配達を自動化し、サービス品質の向上と人件費削減を両立させます。

大型施設での活用シーン

清掃支援
清掃用具の運搬や自動清掃機能との連携によって清掃業務を効率化できます。

オフィスビルでの郵便物・書類配送
フロア間や部署間の配送を自動化し、オフィスワーカーの業務効率を向上させます。

医療分野での活用シーン

病院での医薬品・検体運搬
検査室と病棟間の検体や薬剤の安全な搬送を実現し、医療スタッフの負担を軽減します。

このように、製造業・物流業だけではなく、幅広い業界でAMRを活用できることがわかります。

AMR導入のメリット4選

AMRを導入することで企業はどのようなメリットを得られるのでしょうか。
ここでは、AMR導入によって得られる主要な4つのメリットを紹介します。

1. 移動距離削減と生産性向上

AMRを導入することで、作業者の歩行距離を大幅に削減できます。
これによりピッキング効率が向上し、現場の生産性を高めることができます。
また、24時間稼働による出荷処理キャパシティの拡大にもつながります。

2. 省人化と人手不足の解決

単純搬送作業の自動化により、少ない人員で運用が可能になります。
特に夜間・休日の無人または少人数での稼働が実現できるため、従業員の採用コスト・教育コストの削減にもつながります。

3. レイアウト変更の柔軟性

季節商品や需要変動に合わせた迅速なレイアウト変更が可能です。
工事不要でルート変更できるため、レイアウト変更に伴うコストと時間を節約できます。
また、新商品導入やテストマーケティングによる突発的な変更にも対応できる柔軟性があります。
さらに、フォークリフトなどの人的安全地帯設置が不要となり、省スペースでのレイアウト設計が可能になります。

4. ヒューマンエラーの削減

ヒューマンエラーの削減による品質向上と返品率の低下が期待できます。
マニュアル運用と比較して誤配送のリスクを低減できるだけでなく、労働安全衛生面でのリスク(腰痛や転倒などの労災)防止にもつながります。

AMR導入時の課題と対策

数々のメリットを持つAMRですが、導入前に押さえておくべき重要な課題があります。
多くの企業がAMR導入を検討する際に直面するのが、以下3つの課題です。
ここではそれぞれの課題と、具体的な対応策についてご紹介します。

1. 初期費用が高い

AMRの本体価格は1台あたり数百万〜1000万円以上と高額になることが多く、複数台購入すると初期費用が非常に大きくなります。そのため、ROI(投資対効果)をしっかり事前に計算して、導入計画を立てる必要があります。

また、システム連携や現場改修などの追加コストも発生することが多く、保守契約やメンテナンス費用などのランニングコストも考慮が必要です。

解決策
・ ROIを適切に計算し、予算に合わせてAMRを選定する
・ RaaS(Robot as a Service)などを活用し、ロボットをレンタルする方式も検討する
・ まずは小さい範囲で実証実験を繰り返し、導入の効果を確かめてから本格導入を進める

2. 最低通路幅の確保が必須

AMRが通行するには一定の通路幅が必要です。
通路内に障害物があるとAMRが停止してしまい、作業効率が低下することもあります。既存の倉庫や工場では必要な通路幅を確保できないケースもあるため、注意が必要です。

解決策
・ 導入前に現場環境を詳細にチェックし、必要な通路幅を確保できるか確認する
・ 現場の整理整頓を徹底し、AMRの走行を妨げる障害物を排除する体制を整える
・ 通路幅に合わせた適切なサイズのAMRを選定する

3. 安定した通信インフラの整備が必要になる

AMRの制御には常に安定した無線通信環境が不可欠です。
特に複数台導入時はネットワーク負荷が増大し、通信帯域の確保も課題となります。通信環境が不安定だと、AMRの稼働率や信頼性が大幅に低下します。
また、工場内の金属設備や壁による電波障害でAMRが突然停止することもあるため、注意が必要です。

解決策
・ 導入前に電波環境調査を実施し、通信状況を事前に把握する
・ 通信環境の整備や電波干渉対策を実施する
・ 通信障害に備えたフェールセーフ機能の確認を徹底する
・ ローカル5Gなどの通信サービスを活用し、安定した通信環境を確保する

AMRの安定稼働に必要な通信環境とは?

以上のようにAMR導入には初期費用、通路幅確保、通信環境の3つの課題があります。
中でも複数台のAMRを安定して稼働させるには、信頼性の高い通信環境が特に重要です。
無線通信が必要なAMR運用においては、安定かつ高セキュリティな通信環境を確保する必要があります。

安定した通信環境の必要性

AMRは制御センターと通信し、リアルタイムでセンターから指示を受ける必要があります。通信遅延が発生すると走行精度の低下や急停止のリスクが高まります。
特に複数台運用時は同時に多数の通信が発生します。
広い工場においては通信をカバーするために、複数台のアクセスポイントを設置することが必要です。AMRが移動するとWi-Fiのアクセスポイント切り替えが発生します。その時に一般的なWi-Fiでは1秒未満の遅延が発生しやすく、AMRの急停止の要因になることがあります。

このような通信トラブルが頻発すると、AMRの稼働率低下や作業の中断を招くことに繋がります。

重要性が高まるセキュリティ対策

AMRをクラウドサービスなどインターネットを介して制御している場合、サイバー攻撃を受けるリスクが生じます。
悪意ある第三者による不正アクセスで工場の生産ラインが停止する危険性もあるほか、機密性の高い生産データなどの情報が漏洩するセキュリティリスクも存在します。
特に複数のAMRが連携する高度なネットワークが求められる環境ほど、セキュリティの重要性が増します。
一般的なWi-Fi回線で十分なセキュリティレベルを確保しようとすると、追加の対策コストが発生するという課題があります。

このようにAMRを安定稼働させるには、低遅延かつ高セキュリティな通信環境を整備することが求められます。

docomo MECが提供する低遅延・高セキュアな通信環境

docomo MECは、ドコモネットワーク内に配置したMEC(※)サーバーと、サーバーへのダイレクトなアクセスを可能にする回線サービス(MECダイレクト)を提供するサービスです。

従来のクラウドサービスと比較すると、混雑するインターネットを経由せずドコモネットワーク内で通信が完結するため、リアルタイムで高セキュリティな処理が可能で、AMRの安定運用に必要なリアルタイム通信・高セキュリティな通信環境を整備できます。

※MEC(Multi-access Edge Computing)とは、端末に近い場所にサーバーを設置し、通信の遅延を低減する「エッジコンピューティング」の一種

【参考記事】MECとは?基礎知識から活用シーンまで解説

SIMを入れるだけで閉域通信の構築が可能

MECダイレクトでは、AMRにSIMを挿すだけで閉域通信ネットワークを手軽に構築できます。専用回線や複雑なネットワーク設計の知識がなくても、すぐにAMRの安定稼働環境を整備できる点が大きな特徴です。また、干渉波が多く、AMR移動時にアクセスポイント切り替えが発生するWi-Fi環境と比較して、MECダイレクトではNTTドコモのキャリア電波を利用するため広い工場内においても安定した通信が可能です。

工場や倉庫の新設・レイアウト変更時でも、LANケーブル配線工事が不要で変化にすぐ対応できるほか、AMRの増設時も、新たにSIMを追加するだけで簡単にネットワークを拡張できます。
さらに、SIM単位でのアクセス管理が自社内で簡単に行える点も特徴です。

【詳細はこちら】MECダイレクト

AMR導入時にdocomo MECを採用すると?

AMR導入を成功させる鍵は、安定した通信基盤にあります。docomo MECを採用することで得られる5つの主要なメリットをご紹介します。
これらのメリットは、AMRの安定稼働だけでなく、システム全体の信頼性向上とネットワークやIoT機器の管理負担軽減にも直結します。

導入のメリット5つ

1. 既設されたキャリアモバイル網を利用するため、導入時や拡張時の検証が容易に行えます。
2. 閉域網を使うことで外部からのサイバー攻撃リスクを最小化し、制御データや監視情報などを安全に保護できます。
3. アクセスポイントやVPN設備、光固定回線敷設など、ネットワーク関連機器の導入・保守に係るIT担当者の負担を軽減できます。
4. AMR台数増加や拠点拡大にも柔軟に対応できる拡張性の高い通信基盤を確保できます。
5. 導入環境に合わせ、NTTドコモが提供する5Gワイド(QoS/優先制御サービス)を付加することで、さらなる通信速度向上と通信安定化のご提案が可能です。


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【詳細はこちら】遠隔制御のユースケース

まとめ:AMR導入検討のために押さえるべきポイント

AMRは自律走行ができ、人との協働が可能な次世代の搬送ロボットです。
様々な業界の課題を解決できる一方で、導入においても高いハードルがあることを理解する必要があります。

特に導入前には以下3つの課題に向き合うことが重要です:

ROI試算による投資対効果の検証
現場環境調査と必要な通路幅の確保
安定した通信インフラの整備

特に複数台のAMRを稼働させる際には、安定した通信環境が重要になります。
docomo MECではAMRの稼働を安定させる通信基盤を提供していますので、AMR導入をご検討の際はぜひご相談ください。

リアルタイム通信×高セキュリティ

docomo MEC

docomo MECは、ドコモネットワーク内に配置したMECサーバーと、サーバーへのダイレクトなアクセスを可能にする回線サービス(MECダイレクト)を提供するサービスです。
インターネットに出ない通信により高セキュリティかつスムーズな環境を実現します。

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